ワインバーより楽しい

今日は山裕子と渋谷の「羽當」でお茶した。主宰たちは入口に一番近いレジの横のカウンターに通された。


山裕子:「いい香りがしますねえ。」
主宰:「ここは、コーヒーが美味しいんだよ。コーヒーは誰が淹れるかによって味が違うけど、この店は誰が淹れても美味しいんだよね。」
山裕子:「そうなんですか!」


主宰は、その会話を聞いていた店長と思しき人がほくそ笑んだのを見逃さなかった。顔には、


(フッ…、それはどうかな?)


と書いてあった。かなり挑発的な笑みである。


山裕子はブレンド、主宰はガテマラを注文すると、その店長と思しき人が淹れ始めた。過去にその人に淹れてもらったことはなかった。
まずは蒸らし。ブレンドとガテマラとでは蒸らしのための最初のお湯の投入のタイミングが違った。何でだろう?
蒸らしてから3分位たって、淹れるのかと思ってもなかなか淹れてくれない。


(なにやってんだろう。お湯が冷めちゃうじゃん…。)


余裕で他の仕事をしていているので、忙しくて淹れないのではなさそうだが、それにしても遅い…。と、なにか思い立ったかのようにゆっくりとブレンドを淹れ始める。轢いた豆と会話しながら旨味をすべて引き出しているかのようなゆっくりさだ。その間、ガテマラは放置されたままだ。


(なにやってんだろう。お湯がもっと冷めちゃうじゃん…。)


しばらくしてやっとガテマラを淹れ始める。明らかにお湯の温度は下がりすぎているはずである。ブレンドは淹れ終わってカップに入っているが、店長の前に置かれたまま店長はゆっくりとガテマラを淹れている。


(遅い…。)


そして、待つこと12分くらいたった頃にやっとブレンドとガテマラが出てきた。明らかに通常のコーヒーより温度が低そうだ。口に含むと、やはりぬるい。推定温度63度。なんでこんなにぬるいんだ?と半ば怒っていると、次の瞬間口の中の世界が変わった。


主宰:「ん?こ…、これはっ!」


ものすごい余韻だ。まるでジョルジュ・ルーミエのワインを飲んでいるかのような長くてやさしい余韻だ。土臭いガテマラの味の中にさらに気泡のようなものが入っているかのように錯覚する柔らかさだ。畑で言えばレザムルーズか…。


これはブレンドも飲んで見なければということで、山裕子とカップを交換する。ブレンドも実に美味い。こちらはガテマラより温度が高めで、しっかりとした骨格を味わえる力強い味に仕上がっていた。畑的なイメージで言えば、クロ・デ・ランブレイか…。
蒸らすタイミング、入れるタイミングなどもすべて計算していたということが分かった。こんなに美味いコーヒーはかつて飲んだことが無い。
あまりに盛り上がってしまった主宰と山裕子はもう一杯ずつコーヒーを注文し(マンデリンとキリマンジャロ)、豆の個性に合わせて最高のコーヒーを淹れてくれる技を堪能した。


主宰:「いやあ…、うまいですねえ。」
店長:「ありがとうございます。」
主宰:「さっきの僕たちの会話聞いてましたよね?『だれが淹れても美味しい』って言っていた。」
店長:「はい聞いてました。」
主宰:「それを聞いて、『フッ、それはどうかな?』って思ったでしょ?」
店長:「はい、思いました。なので、違いを分かっていただこうと思いました。」
主宰:「でも、違いが分からない人もいるでしょ?」
店長:「ほとんどの方が違いが分からないので、お客様もどうかと思ったんですけど、分かっていただいたようでよかったです。」
主宰:「いやあ、本当にうまかったです。また来たら淹れて下さいね。」
店長:「はい、お待ちしています。」


主宰:「下手なワインバー行くより楽しいよね?」
山裕子:「本当にそうですね!」

今日のお茶

ブレンド
マンデリン
ガテマラ
キリマンジャロ